「おいしいごはんが食べられますように」
ネタバレ注意!!
特に書くことを決めないまま、ダラダラと先ほど読み終えたばかりの本の感想を述べよう。ネタバレすることは間違いない。ネタバレなしにこの本の感想を展開するのは難しい。
「おいしいごはんが食べられますように」、この本が芥川賞をとったというニュースを聞いて、私は即、地元の本屋に買いに行った。つまりこの本は私の本棚に約3年ほどあったのだ。しかし読もうとしても、どうにもつっかかって止まってしまう・・・。理由は簡単で、とにかくグロく、怖いから。登場人物が全員狂ってる・・・まともな倫理観をもった、読者が自己投影しやすい人物がいない・・・およよ、となかなか読み進めることができなかった。しかし最近「光が死んだ夏」を最新巻まで購入し読み終えたことで、なんとなくホラーへの耐性が付いた気がした。本棚にはいわゆる積読(未読の本)がそこそこある中で、ずっと課題図書にしていたこの本を一気に読み終えたのだった。
ちなみに怖いだのホラーだのと言っているが、別にこの本は「亡くなった親友が生き返って普通に生活しているミステリー」だとか、「なぜか急に雪女と結婚する鬼の手をした教師の活躍劇」といったものではない。いわゆる職場のドロドロな人間関係と、ちょっとした事件を描いた小説である。
物語の語り手?一人称?で登場するのは、押尾さんという要領よく仕事をこなせるアラサー女性。押尾さんの職場にはいわゆる「姫」がいて、その姫中心に職場という狭い世界はいつもまわっている。姫の名前は芦川さん。芦川さんは線の細い女性で、女性らしい花柄モチーフのものが好き。ちょっと頭痛がすると早退するし、急に休んだりする。残業はしない。外出が必要な外部研修もちょっと面倒くさそうだったら体調不良を理由にドタキャンする。当然のように仕事はできない。後輩の押尾さんに即抜かれる始末。しかしなぜこんな、いかにも使えない女性社員を中心に職場がまわっているのか。理由は2つある。まず、上司(藤さん)のセクハラを許容し、なんなら飲み会のときには自分から上司に近づき、ボディタッチをしてご機嫌をとっているから。もうひとつの理由は、手作りのお菓子を定期的に会社に持ってきて、パート女性たちからの支持を得ているから。
芦川さんは体調不良を理由に早退した翌日に、「家で鎮痛剤飲んだら体調が良くなったので、お菓子作って今日みんなに持ってきました☆」とお手製のお菓子を職場で配るのだ。・・・。えっ、体調悪い中で作ったお菓子なんて、何入ってるかわかんないからいらない・・・、が私が抱く超絶正直な感想だが、上司も、パート女性たちも「すごい!プロみたい!美味しい!」とそのお菓子を褒めたたえる。それを遠巻きに見る押尾さん、と二谷くん。この二谷くんは芦川さんの彼氏?だ。お前もそのお菓子褒めたれや彼氏やろ、というツッコミもなんのその、この二谷くんは芦川さんが作るお菓子やご飯が、押し付けがましくて大嫌いというね。二谷くんはそもそも食にあまり興味がない。付き合う女性は、大人しくて従順そうで簡単にヤれて顔が好みの子。たまたま同じ職場の芦川さんがその条件に合致したというだけで、芦川さんの作る食事に一切の関心がないどころか、なんなら嫌悪している。いびつ過ぎる。
芦川さんは気の毒なことに、あらゆる「女」のカルマを背負わされている。あー、職場にいるなぁ。残業は絶対にしない、のに飲み会は張り切って来る。嫌な仕事がある日は色んな理由つけて休む。当然のように他人に仕事を押しつける。仕事ができないのに、周りからの評価(それも仕事の評価ではなく「いい子だよ」「優しい子だよ」とか、なんかそういうゆるふわな)だけで存在を許可されている、常に男の庇護下にいる、実家暮らしで、競争の経験もなく、新卒で入れた会社に一生しがみつき続けるのだろうって感じの、世間知らずな女。ほんで武器は「お手製のお菓子」。かぁ~!
この物語の一人称?目線?は押尾さんだ。おそらくやけど、こういう小説を読む層はインテリが多いので、押尾さんのようなしっかりと自立した社会人女性が一番共感しやすいよね?ということなのかな。確かにこのイカレたメンバーのなかで、最もマシなのは押尾さんだろう。割と物語の序盤の方で、押尾さんと芦川さんが対立したら、押尾さんがopt outするだろうというのは予感していた。だって押尾さん、簡単に転職できそうだからね。芦川さんはもう、どう考えてもこの会社しか居場所がないんだもの・・・。セクハラされてもNoって言えないよね、上司の怒りなんて買えないよね。
一方で、二谷くんと芦川さんを描く目線は常に第三者視点だ。結局二谷くんの本心っぽいものは最後までわからなかった。表紙を見ると、一口コンロの上に鍋を置き、何か液体のようなものを温めている。これはカップ麺用のお湯か、紅茶のティーバッグ用のお湯か。つまり主役は二谷くんなのかなぁとも思う。お前は結局何がしたかったの、人生で。夢を諦めきれずに文学のゼミに入ったのに、ろくに読書もできない多忙な社会人生活を過ごし、親戚に急かされるがままに、簡単に言うことを聞いてくれそうな都合のいい女と結婚するという、吐き気を催すような人生を送っている。ほんで彼女の作ったお菓子を毎度グチャグチャに潰して会社のゴミ箱に捨てるという・・・、なんかもう、デスマで色々と疲れて病んじゃったのかな・・・。それはそれでかわいそう。
芦川さんのお菓子を捨てた人物は複数いるようだったけれど、結局誰だったんだろうなぁ。まぁ手作りお菓子って、割と人を選ぶしね・・・。私もバレンタインデーやホワイトデーに、関係性のある人からもらえば喜んで食べるだろうけど、職場の仕事出来ねえやる気ねえ社員がくれる、早退した日に作ったお菓子なんて、嬉し気に受け取れるかどうかわかんないや。会社のゴミ箱に捨てるっていうのは、そこそこの悪意を感じる。
最後は二谷くんが「目覚めて」芦川さんと別れるのか、惰性でこのまま結婚するのか、それもいよいよわからん。二谷くんは流されやすいようなので、結婚するのでしょう。これで毎日おいしいごはんを食べられるね!絶対に捨てるなよ!惰性で結婚生活も乗り切れ!芦川さんみたいなタイプの女は離婚するときマジ苦労するぞ!
しかし二谷くんの「食事なんてなんでもいい。可能ならサプリだけでもいい」という考え方は、わからんでもない。私も、遠出してまでパンケーキやタピオカを並んで食べるという行為は、正直理解できない。友達となら行くけれど、貴重な週末に、一人でそんなことは絶対にしない。そして他人に食のこだわりを押しつけるのがなぜかOKとされている風潮がなんとなく嫌だ、というのも理解できる。デスマ中に、あんま残業しない同僚兼恋人から「こんな時間まで大変ですけど、お味噌汁とか、なるべくちゃんとした、体にいいもの食べてくださいね!」と言われたら殺意わくわ。よくぶん殴んなかったね。芦川さんは同僚というより結婚するかもしれない彼女枠に入れられていて、ず~っと二谷くんが芦川さんと対等に話をしないあたりが本当に歪んでいると思いましたとさ。対等にお話しできる同僚枠にはずっと押尾さんを入れていたので、まぁ不要だったんだろうけども。全くリスペクトしていない女と、流れに身を任せて結婚、できるんだろうなぁ・・・、二谷くんは。
もう冒頭から最後まで、グロさと怖さを終始失うことなく小説は終わった。押尾さんの次のステージに幸あれ。このほかに救いはない。
最近この本以外にも、「ようこそ!FACTへ」「光が死んだ夏」「タコピーの原罪」「怪獣8号」「チェンソーマン(第一部)」を読んだり、劇場版「鬼滅の刃(無限城編)」を見たりしたので、それは最近見た漫画・アニメみたいな形でブログに感想残すかも。今気になっているのは「デデデデストラクション」。
今日から8月だ。お盆に帰省した際には、地元の本屋にまた本を買いに行こうかな。四国の地方都市の、イオンに入ってる宮脇書店。「おいしいごはんが食べられますように」の著者の本がきっとたくさん置いているだろう。地元から芥川賞作家を輩出したのは、誇りですからね、ええ。
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